大阪大学大学院医学系研究科鐘其静特任研究員、池中建介助教、望月秀樹教授らの研究グループは、パーキンソン病(PD)患者にホスファチジルイノシトール3リン酸(PIP3)が蓄積することが、αシヌクレイン(αSyn)の異常な凝集体(レビー小体)の原因となることを明らかにしました。
これまで、PDの原因にαSynの凝集が中心的な役割を果たしていることが広く知られていましたが、どうやってαSynが凝集蓄積するのか分かっていませんでした。
1割程度の患者では、糖脂質のグルコシルセラミドが蓄積しやすい体質で、過剰なグルコシルセラミドがαSynと結合して凝集を起こすことが知られていましたが、他の9割の患者の原因は不明でした。
池中助教らの研究グループでは、αSynと結合する脂質をメンブレンストリップ法で探索したところ、PIP3が強く結合することを見出しました。
さらにPIP3とαSynを混ぜたところ、αSynが異常な構造をもつ凝集体を作ることがわかりました。
そしてこの凝集体の形や性質を調べたところ、いくつかあるαSynが蓄積する病気の中で、特にPD患者の脳内で蓄積するαSyn凝集体と形や性質が類似していることが明らかになりました。
次に、培養細胞や神経細胞においてPIP3が蓄積する処置をすると、リソソームやシナプス終末といった、実際の患者でαSynが凝集を開始する場所においてPIP3と一緒に凝集蓄積するαSynが観察されました。
患者の脳組織のPIP3の量を、質量分析や免疫染色を用いて測定したところ、PD患者において過剰に蓄積していることがわかりました。
さらに免疫染色でαSyn凝集体とPIP3が一緒に凝集していることを示しました。
これらの結果から、PIP3の過剰な蓄積が、PD患者においてαSynのレビー小体形成のきっかけになっていることを示唆し、これまで明らかにされてこなかったαSyn凝集する原因が一部解明されました。
αSyn凝集のきっかけが解き明かされたことで、PIP3がPDのバイオマーカーの可能性やPIP3の過剰な蓄積を抑える治療や、αSynとの結合を阻害する治療といった全く新しい治療戦略が期待されます。
青山メディカルクリニック 院長 松澤 宗範
参考文献:“Phosphatidylinositol-3,4,5-trisphosphate interacts with alpha-synuclein and initiates its aggregation and formation of Parkinson’s disease-related fibril polymorphism”
著者名:Chi-Jing Choong1, César Aguirre1, Keita Kakuda1, Goichi Beck1, Hiroki Nakanishi2, Yasuyoshi Kimura1, Shuichi Shimma3, Kei Nabekura1, Makoto Hideshima1, Junko Doi1, Keiichi Yamaguchi4, Kichitaro Nakajima4, Tomoya Wadayama1, Hideki Hayakawa1, Kousuke Baba1, Kotaro Ogawa1, Toshihide Takeuchi5, Shaymaa Mohamed Mohamed Badawy1, Shigeo Murayama6, Seiichi Nagano1, Yuji Goto4, Yohei Miyanoiri7, Yoshitaka Nagai5, Hideki Mochizuki,1*, and Kensuke Ikenaka1*