もしストレスの多い時期を経験し、自分がどれだけ老けて見えるかを客観的に考えたことがあるなら、最近の研究結果は興味深いかもしれません。この研究は学術誌『セル』に掲載されました。
この研究では、ストレスが老化を促進することが確認されましたが、同時にストレスからの回復によって老化を逆転させることもできることが示されました。
この研究は、ハーバード・メディカル・スクールやデューク大学など多くの学校の研究者が共同で行いました。
研究者たちは、「我々が得たデータは、生物学的年齢が変動する性質を明らかにしています。ストレスは生物学的年齢を急激に上昇させることがありますが、同時にその上昇をなかったことにすることもできます」と述べています。
この研究では、実際の年齢と生物学的年齢が必ずしも同じではないことを前提としています。例えば、非常に健康的な生活を送っている40歳の人の体は、35歳や30歳の人と同じように機能し、その人の生物学的年齢は実際の年齢よりも若い可能性があります。一方、健康的でない生活を送ってきた人は逆の状況となります。
ストレスが身体を老化させることはよく知られていますが、今回の研究では、ストレスの多い出来事を経験した後の回復期間が老化を逆転させることができるのかという疑問に焦点を当てました。
研究チームは、生物学的年齢を測定するために、状況に応じて遺伝子発現の変化を観察する新しいツールを使用しました。そして、様々なストレスがかかる状況下で、マウスとヒトの生物学的年齢を測定しました。
その結果、大手術や新型コロナウイルス感染症の重症化、妊娠などのストレスのかかる状況では、生物学的老化が進行することが何度も確認されました。また、ストレスの多い出来事が終わった後、老化は数カ月または数日の期間で部分的または完全に回復することも分かりました。
研究者たちは論文の中で、「我々の研究の過程で明らかになったのは、ストレスにさらされると生物学的年齢が上昇するというパターンです。しかし、ストレスがなくなると生物学的年齢は完全または部分的に戻ることができる」と述べています。
興味深い発見の一つは、新型コロナウイルス感染症に感染し重症化した後に回復した人々では、抗炎症薬が生物学的年齢が回復する時間を短縮していたことです。つまりアンチエイジング薬などの治療による介入が可能であることが示唆されました。つまり、老化が進んだ場合でも戻すことができるため、「生物学的年齢を元に戻すためのメカニズムが存在し、一時的な老化を治療で戻せる」と研究者たちは述べています。
ただし、この研究では、短期的な老化と回復のパターンが長期的な老化にどのように影響するのかなどは明らかにされていませんし、今回の研究にも限界があり、さらなる研究が必要です。
一方で、この研究は、ストレスの多い時期を経験した後に現れる老けた表情や感情が永遠に続くわけではないことを示唆しています。老化から回復するためには、時間をかけて休息することが重要です。
青山メディカルクリニック 院長 松澤 宗範
【参考文献】
Biological age is increased by stress and restored upon recovery.
Poganik JR, Zhang B, Baht GS, Tyshkovskiy A, Deik A, Kerepesi C, Yim SH, Lu AT, Haghani A, Gong T, Hedman AM, Andolf E, Pershagen G, Almqvist C, Clish CB, Horvath S, White JP, Gladyshev VN.Cell Metab. 2023 May 2;35(5):807-820.e5. doi: 10.1016/j.cmet.2023.03.015. Epub 2023 Apr 21.PMID: 37086720