ヒトの腸内には数百種類、40兆個もの腸内細菌が存在し、次世代シークエンサーによる腸内細菌解析法の確立以降、宿主の年齢や健康状態、食事や運動、服薬などの生活習慣などが、腸内細菌叢の変化に影響を与えることが分かっています。特に、宿主の年齢は腸内細菌叢のバランスに大きな影響を与えることが、複数のコホート研究から示されています。
中高年から老年期にかけて、ビフィズス菌が減少し、一方でエンテロトキシンなどの毒素を産生するウェルシュ菌が増加するなど、加齢に伴う腸内細菌叢の変化が起こることがわかっています。そして、日本人367名を対象に、生後数週間の新生児から104歳までの健康な個体を対象に、腸内細菌叢解析を行った研究では、ビフィズス菌の割合が離乳後から大幅に減少し、60歳代以降にさらに減少すること、そして大腸菌やサルモネラなどの病原性細菌が含まれるプロテオバクテリア門の割合が60歳代から顕著に増加することが明らかになりました。
このような高齢者の腸内細菌叢の変化は、加齢に伴う身体の変化が大きな影響を与えていると考えられます。例えば、咀嚼・嚥下能力の低下や胃酸・胆汁酸の分泌低下、免疫機能の低下などが宿主自身の加齢性変化として重要です。
たとえば、口腔内には1mLあたり約10の9乗個の口腔内細菌が含まれており、一日約600mLの唾液を飲み込むことで約10の11乗個の細菌が消化管を通過します。これらの細菌の大部分は胃酸によって死滅しますが、加齢による胃酸の分泌低下は生きたまま腸管下部に到達する細菌数を増加させる可能性があります。
実際に、高齢者では口腔内細菌叢と腸内細菌叢の類似性が有意に高くなることが、健康な成人と高齢者を対象にした試験で確認されています。また、歯周病に関連するフソバクテリウム・ヌクレアタムは、大腸がん患者の腸内細菌としてがん部に多く検出されており、口腔内から腸内へ移行している可能性が示唆されています。
このような疫学的な解析から、歯周病はさまざまな疾患のリスクファクターであることが示されており、高齢者の口腔内ケアが加齢性疾患の予防戦略として注目されています。
加齢に伴うプロテオバクテリア門やフゾバクテリアなどの増加は、リポ多糖(LPS)という菌体成分による炎症応答を引き起こし、腸管バリア機能の低下をもたらすことが分かっています。これにより、Leaky Gut(腸管透過性亢進)が誘導され、細菌由来成分などが血流に漏れ、全身の慢性炎症や加齢性疾患を促進すると考えられています。
一方で、ビフィズス菌は乳酸や酢酸を産生することで有益な生理機能を発揮します。たとえば、酢酸は腸管上皮細胞においてタイトジャンクション関連因子であるClaudin-1やOccludinの発現を上昇させ、腸管バリア機能を高めます。また、酢酸には強い殺菌活性があり、大腸菌の増殖を抑えることで腸内環境を整える作用があります。
100歳以上の超高齢者の腸内細菌叢は、ビフィズス菌の比率が高いことが報告されています。実際に、超高齢者の腸内細菌叢から分離されたビフィズス菌は、腸管の免疫バリア機能を向上させることがマウスを用いた実験で示されています。
これらの結果から、プロバイオティクスやプレバイオティクスを使用して、加齢によって減少するビフィズス菌を維持・増加させることが加齢性疾患の予防、そして抗老化に有益な方法となり得ることが示唆されています。
青山メディカルクリニック 院長 松澤 宗範
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