イントラクライン機構を眼のまぶたのマイボーム腺に見つけ、そのホルモン合成酵素の解明に基づいたNMM点眼療法により、ドライアイの主原因となる同腺機能不全を改善できることを明らかにした研究がありました。
本研究は、2022年2月に米国の国際学術誌「Nature Aging」にオンライン掲載されました。
イントラクラインとは、英語で内分泌を表す『エンドクライン』という言葉に対比される言葉です。イントラクラインは、作られたホルモンが血流に放出されることなく、合成されたその場で作用します。
一方、マイボーム腺機能不全(Meibomian Gland Dysfunction: MGD)は、ドライアイ発症の主な要因であり、シェーグレン症候群や抗緑内障点眼長期使用患者、重症オキュラーサーフェイス疾患にも併発する病気です。
マイボーム腺は、眼のまぶたにある皮脂腺で、涙液の最表層を形成する脂質を産生する器官です。研究グループは、まず、ヒトおよびマウスにおいてマイボーム腺の組織形態が加齢により萎縮や脱落をすること、さらには、ステロイドホルモンを局所で産生するイントラクライン機構がマイボーム腺に存在することを実験で明らかにし、その活性が加齢により弱まることを示しました。
さらに、マイボーム腺のイントラクライン活性の要となる酵素として、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)要求性の3β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(3β-HSD)を同定しました。
そして眼局所の3β-HSDを欠損させると、組織局所のステロイド合成能がなくなり、マイボーム腺の萎縮とドライアイが発症しました。
さらに、マイボーム腺の3β-HSD活性には昼夜の顕著なリズムがあることと、そのリズムや加齢による活性低下の原因が、酵素が触媒反応に用いるNAD+の細胞内濃度変化に依存することを突き止めました。よってNAD+のマイボーム腺内濃度を効率よく上げる方法によって MGDの抑制が可能になることを明らかにしました。
具体的には、NAD+の生体内前駆物質であるニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を用いて、3β-HSDの酵素活性の変動に合わせて点眼投与を行うことで、マイボーム腺のイントラクライン機構が効率よく再活性化され、それによって、腺細胞の増生とともにドライアイが緩和されることを明らかにしました。
ヒトのマイボーム腺の細胞にもマウスと同一のNAD+要求性3β-HSDが強く発現することを既に見出していることから、今後、ヒトへの臨床応用が期待されます。
今回のNM Nによるイントラクライン活性化法は、非ステロイドのNMNの投与によって、マイボーム腺の生来のステロイドホルモンを活性化することができるため、副作用などの問題を回避でき、生体内物質であるNMNの眼局所への時間特異的な投与法であるため、様々な影響を他の臓器に与えてしまうリスクも低いのではないかと考えられます。
青山メディカルクリニック 院長 松澤 宗範
参考文献
タイトル:『Intracrine activity involving NAD-dependent circadian steroidogenic activity governs age-associated meibomian gland dysfunction.』
著者:L Sasaki, Y Hamada, D Yarimizu, T Suzuki, H Nakamura, A Shimada, KT Nguyen Pham, X Shao, K Yamamura, T Inatomi, H Morinaga, EK Nishimura, F Kudo, I Manabe, S Haraguchi, Y Sugiura, M Suematsu, S Kinoshita, M Machida, T Nakajima, H Kiyonari, H Okamura, Y Yamaguchi, T Miyake, and M Doi
掲載誌:Nature Aging
DOI:10.1038/s43587-021-00167-8