リキッドバイオプシーの主な標的は
血中遊離 DNA(cell-free DNA:cfDNA)
血中循環腫瘍細胞(circulating tumor cell : CTC)
血中遊離RNA(cell-free RNA:cfRNA)
エクソソームを含めた細胞外小胞
などです。cfDNAは体液中を循環する DNAの総称で、それらを解析することにより遺伝子変異や病細胞の性質を推測することが可能です。
癌患者の血中cfDNA濃度は上昇しており、特に癌由来のcfDNAは癌細胞由来DNA(circulating tumor DNA:ctDNA)と呼ばれます。
ct DNAは微量なため、遺伝子変異の検出が難しく、高精度な検出技術の確率が望まれます。
膵癌においてはKRAS変異解析が予後や抗剤治療効果予測に寄与することが示されています。
CTCは、組織から体液中に入り込み、全身を循環する癌細胞です。そのため他のリキッドバイオプシー標的と比較してより多くの情報取得が可能です。
しかし、CTC の検出数は1ml中数個~100個程度と少なく、解析装置・方法が多岐にわたるため検出精度に一貫性が乏しいという問題点も存在します。
膵癌においては、CTCにおけるstemness遺伝子の一つであるLIN28Bの発現と患者予後との相関が報告されています。
また、エクソソームに内包されるmiRNAの存在が数多く報告されており、膵癌においてもいくつかの発現異常が認められています。
miR-21 は健常者と比べて膵癌患者で発現亢進し、全生存期間と抗癌剤治療耐性にかかわる因子でした。
また、miR-17-5pとともに miR-21は膵癌患者血清エクソソーム中に高発現し、健常人のみならず慢性膵炎患者との鑑別に有用との報告もあります。
さらにmiR-17-5p の高発現は、転移の有無、Stage進行との相関が認められました。
別の報告では、血漿EVs内のmiR-10b、miR-21、miR-30C、miR-181aの発現は慢性膵炎患者と比べ膵癌患者において有意に上昇し、これらのmiRNA は膵癌術後6ヵ月で健常者と同等レベルまで減少することがわかりました。
この検討では、CA19-9やGPC1の発現よりも、これらのmiRNAのほうが慢性膵炎と癌の鑑別に有効であったとされています。
血清エクソソーム中のmiR-1246、miR-3976、miR-4306、miR-4644の発現は膵癌患者で上昇し、これらの併用は、Stage 0〜I を含めた膵癌診断能の向上に寄与するという報告もあります。
その他、miR-451a、miR-196aなどが血液中エクソソーム内に高発現し、膵癌における体液診断の標的としての有用性が示されています。
血清エクソソームに内包される機能性RNA (non-coding RNA: ncRNA)の中でも200塩基以上の長鎖RNAであるIncRNAも膵癌診断に役立ちます。
IncRNAは、転写制御、遺伝子発現の制御、miRNAの活性を調節させるなど、多彩な作用機序を介し疾患の病態成立に寄与します。
IncRNAの一つであるUCA1は、膵癌患者血清から抽出したエクソソーム内に高発現し膵癌診断に寄与します。
UCA1は miR-96-5p発現・活性抑制を介し、低酸素下における血管新生および膵癌増殖促進効果を有します。
また、IncRNA-Sox2ot は癌幹細胞性などの形質機得に関与し、血漿エクソソーム中における発現上昇は予後不良因子となることが示されています。
Highly Up-regulated in Liver Cancer(HULC)も膵癌患者血清エクソソーム中に高発現することが示されています。
発現意義や機能の多くが依然未解明である IncRNA ですが、血液中においていくつかの発現が確認されており、新しいバイオマーカーとして期待されています。
青山メディカルクリニック
院長 松澤宗範
参考文献:胆と膵 (0388-9408)42巻8号 Page717-724(2021.08)