組織特異的幹細胞は、個体の成長とともに作られ、その後の一生を通じて組織の健康を維持する重要な細胞です。皮膚や腸などの組織で見られます。これらの幹細胞は、古い細胞の代わりになる新しい細胞を作ることで、組織の正常な機能を保ちます。
一方、老化に伴う生体機能の低下は、さまざまな原因が考えられていますが、その一つが組織特異的幹細胞の機能低下や減少です。
老化すると、これらの幹細胞の働きが鈍くなったり、数が減少します。その結果、新しい細胞の生成が減少し、組織の修復や再生がうまくいかなくなります。
老化に伴う時間の経過と幹細胞の変化が、どのようにして起こるのか、そしてこれがどのように組織や器官、そして個体の老化に影響を与えるのか、これは老化に関する研究の重要なテーマの一つです。
表皮の最外層には、表皮角化細胞と呼ばれる細胞が集まっています。これらの細胞は、基底層と呼ばれる場所で分裂を始めます。そして、その分裂した細胞の一部が段階的に有棘層、顆粒層に移動しながら成熟していきます。
最終的には、細胞は核を失って角質層と呼ばれる層を形成し、皮膚のバリアを担う役割を果たします。基底層で生まれた未分化の細胞が、最終的にバリアを形成する角化細胞へ変化する過程が角化です。この角化細胞は約1ヵ月から1ヵ月半で生まれ変わるサイクルを持っています。
表皮の基底層では、常に新しい表皮角化細胞が作られています。これを支えているのが「表皮角化幹細胞」と呼ばれる細胞です。これらの幹細胞は、同じ能力を持つ角化幹細胞と、一時的に増殖する能力を持つ一過性増殖細胞(TA細胞)に分裂します。TA細胞は数回分裂することで多くの角化細胞を生み出し、これによって角化プロセスが進行し、皮膚が健康な状態を保つのです。
ヒト皮膚から取り出された表皮角化細胞の一部は、培養環境でコロニーを形成する能力を持っています。特に増殖能力が高い細胞からなるコロニーを「ホロクローン」と呼びます。これらのホロクローンは180回以上分裂でき、理論的には1個のホロクローンから体表面をすべて覆うだけの表皮角化細胞を生み出すことができると考えられています。
さらに、これらの角化幹細胞は培養された細胞シートを形成することができます。この培養された皮膚シートは、皮膚の傷や損傷部に移植することができ、例えば熱傷の治療に役立てられています。また、最近では先天性の皮膚疾患を持つ患者から取り出した角化幹細胞に正常な遺伝子を導入し、正常な機能を持たせた細胞シートを移植する遺伝子治療にも応用されています。
このように、ヒト表皮角化幹細胞の研究は細胞生物学の成果を臨床現場で活用し、幹細胞を用いた再生医療の分野を進化させてきました。
青山メディカルクリニック 院長 松澤 宗範
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