DNAの塩基配列を変えることなく、遺伝子のはたらきを決めるしくみをエピジェネティクスとよび、エピゲノムは、ゲノムDNA中の遺伝子をRNAに転写する度合いを制御する、ゲノムDNAの可逆的な化学修飾の仕組みです。
エピ (Epi)は「~のうえ」という意味を表す接頭語で、エピゲノムはゲノムのうえにつけ足される情報、という意味になります。
これまではセントラルドグマの概念によって、ゲノムの遺伝子がすべての運命を決めると解釈されてきましたが、実は違いました。
遺伝子はゲノムの基本部分を提供していますが、その遺伝子のDNA配列にエピゲノムの情報がつけ足されると、その後の遺伝情報の方向性に変化がつけられます。つまりエピゲノムとは遺伝子のDNA配列につけ足されたON/OFFスイッチのようなものです。
ゲノムに潜んでいるがん遺伝子も、エピゲノムのスイッチがOFFになっていれば発病しません。逆にP53というがん抑制性の遺伝子がエピゲノムのスイッチがOFFになってしまうと、がんの発生を抑えることができなくなってしまいます。
研究が進む中で、正常細胞とがん細胞では、エピゲノムに違いがあることがわかってきました。
がん細胞にはエピゲノム変化の一つ、DNAの「メチル化」があることがわかってきました。DNAのメチル化とはゲノムにつけ足される正常なエピゲノム情報の一つで、正常な細胞においても私たちの生存に欠かせません。そのDNAのメチル化の異常が、がん細胞のほとんどに認められます。
具体的にはがん細胞では、がん抑制遺伝子のいくつかにメチル化が生じることで不活性化し、機能できなくなっています。
また、がん細胞のゲノム全体では、DNAのメチル化が著しく減少しています。ゲノム全体が低メチル化になると、染色体が不安定になり、不必要な遺伝子配列が無秩序に働いてしまいます。つまり、がんが増殖している状態はがん抑制遺伝子の高メチル化、ゲノム全体の低メチル化が起こってしまっています。
また、がん細胞では、遺伝子DNAにも突然変異が生じやすくなっています。特にDNAの塩基配列の中でメチル化されたシトシン (C) は、チミン(T)に変換されやすく遺伝子の突然変異につながりやすいことが分かっています。
このように、細胞のがん化にはエピジェネティックな変化が大きく影響し、がんがエピゲノムの変化を伴った老化性疾患であるということがわかります。
青山メディカルクリニック院長
松澤 宗範
参考文献:
・『若化!医師が見つけた若返る3つの魔法』著者 宇野克明