カロリー制限による寿命延長効果に関与する分子として、silent information regulator-2 (Sir2) があり、Sir2を欠損させると寿命が短縮し、過剰発現させると延長することが知られています。
そしてこの分子がNAD+依存性ヒストン脱アセチル化酵素として働き、酵母 Sir2の特定リジン残基を脱アセチル化することによって、Sir2はヒストンを脱アセチル化し、ヘテロクロマチン構造の安定性に寄与していると考えられています。
Sir2の哺乳類ホモログとして、Sirt1からSirt7まで同定されています。Sir2はカロリー制限することによりその発現が上昇し、寿命が延長することがわかっていましたが、Sirt1に関してもマウスの実験から同様の現象が見られています。Sirt1は、NAD+依存性脱アセチル化酵素としての機能をもち、生体内のさまざまなタンパク質と相互作用することにより広範な生理機能を制御していると考えられています。
サーチュインはNAD+依存性ヒストン脱アセチル化酵素です。そして、サーチュイン遺伝子の機能は細胞内NADが低下することで損なわれることとなることから、カロリー制限による個体寿命延長のためには、細胞内NADを正常に保つことが必須となります。
NAD合成系には食事由来のビタミンB3とトリプトファン由来の2つの合成経路があり中間代謝産物のNMNを経てNADが合成されます。
ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ (NAMPT)がNAD合成系の律速酵素で、環境や栄養状態に応答して発現量が変化することから知られており、加齢とともに発現量が低下します。
NAMPTは脂肪組織で多く産生されて分泌することが知られており、特にエクソソームに含まれることが報告されています。
ワシントン大学の報告では血中エクソソーム内のNAMPTを定量した結果、加齢とともにNAMPTの発現が低下していること、血中エクソソーム内のNAMPT量とマウスの余命が相関することが示されています。つまりNAMPTの発現が低下することで細胞内NADが低下し寿命に影響を与えていることが考えられます。
食事由来でビタミンB3を多く摂取しても、NMNへと変換する酵素のNAMPTが少ないと細胞内NADの上昇にはつながらないため、その前駆体であるNMN、あるいはニコチンアミドリボシド (NR) を摂取することが有効と考えられます。NMN250mg/日を食事から摂取するためには、ブロッコリー4,000房、枝豆20,000粒摂取する必要があります。
マウスでの検討において、NMNを投与することでさまざまな抗加齢効果が確認されています。体重増加抑制、エネルギー代謝促進、身体活動上昇、インスリン感受性亢進、脂質代謝改善、骨格筋ミトコンドリア機能改善、眼機能改善、骨密度上昇などがあげられます。
これらの効果はヒトでの検証も始まっています。ワシントン大学では、閉経後の高齢女性の糖尿病予備群25名を対象にしてNMN250mgを10週間内服する臨床試験が実施されました。結果ですが、耐糖能の評価において、NMN投与群でインスリン抵抗性の改善、なかでも骨格筋でのインスリン抵抗性改善が認められています。一方で, ミトコンドリア機能の改善は顕著ではありませんでした。
抗加齢作用を評価する観点で、個体老化を評価するバイオマーカーが求められています。バイオマーカー候補としては、エイジングクロックと呼ばれるDNAメチル化の定量 AIを駆使した顔、皮膚のみた目年血管内皮機能評価による血管年齢など、精度の高い指標が続々と報告されています。
また、老化評価指標の一つとして、生理学的な衰えとしてのフレイルがあります。フレイルは可逆的な状態で、要介護が必要な状態になる前に介入治療を行うことで、健康寿命を延伸することができると考えられています。
青山メディカルクリニック 院長 松澤 宗範
参考文献:
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5)ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)について 中神啓徳 アンチ・エイジング医学Vol.18No.1 Page030-033(2022.02)