間葉系幹細胞由来エクソソームが免疫細胞浸潤を抑制
ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(hMSC)のエクソソームによって、免疫チェックポイント阻害薬投与による1型糖尿病の発症を抑制しうることを、大阪大学の堀谷恵美氏、同大学肥満脂肪病態学寄附講座講師の喜多俊文氏、同大学内分泌・代謝内科学教授の下村伊一郎氏らの研究グループが動物モデルで発見しました。
がん治療薬の免疫チェックポイント阻害薬は、自己免疫性の副作用を起こすことが分かっています。その中でも1型糖尿病では、インスリン産生細胞が傷害され血糖コントロールが極めて不良となり、有効な予防・治療法は確立されていません。
通常は糖尿病を発症しない雄性NODマウスを抗PD-L1抗体腹腔内投与のみのhMSC非投与群、抗PD-L1抗体投与およびhMSC尾静注投与群、対照群に割り付けたところ、hMSC非投与群では64%(25匹中16匹)で糖尿病が誘発されましたが、hMSC投与群では19%(12匹中4匹)でした。
抗PD-L1抗体投与により膵島におけるCD3陽性T細胞(6.2倍)、Mac-2抗原(2.5倍)、CXCL9陽性マクロファージ(40.3倍)が有意に増加し、膵β細胞インスリン産生細胞間隙にT細胞および通常は膵島β細胞領域に存在しないCXCL9陽性マクロファージの浸潤が見られました。
しかし、hMSC尾静注投与群ではこうした免疫細胞の増加や浸潤が阻止されました。
さらにインスリン含有量と膵β細胞面積もhMSC尾静注投与群では改善が認められました。
また、注入されたhMSCの局在を調べたところ、肺組織に大量に局在していましたが、膵には見られませんでした。
hMSCの投与により血漿エクソソーム濃度のマーカーであるAlix、hCD63、hMFG-E8、Synteninの有意な増加、IL-6、IL-8の増加など血漿サイトカインプロファイルの変化が確認されました。
これらのことから、hMSCが産生するエクソソームなどの液性因子を介して1型糖尿病の発症を抑制しうることが判明しました。
今回の発見で抗がん薬治療の副作用による1型糖尿病の治療法として今後MSCのエクソソームが応用されることが期待されます。
青山メディカルクリニック 院長 松澤 宗範
参考文献:
免疫チェックポイント阻害薬投与により誘発される1型糖尿病への間葉系幹細胞投与効果の検討
堀谷 恵美(大阪大学 大学院医学系研究科内分泌・代謝内科学), 喜多 俊文, 沖田 朋憲, 中村 勇斗, 西田 浩之, 本間 陽一, 小澤 純二, 東 みゆき, 前田 法一, 下村 伊一郎
日本内分泌学会雑誌(0029-0661)98巻1号 Page359(2022.04)