最近の研究によれば、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患では、細胞外小胞であるエクソソームを介して、原因となるタンパク質やその凝集体が分泌され、細胞外液中で検出されることが報告されています。
これらの凝集体を含んだエクソソームは、細胞から細胞へと広がり、他の細胞内でタンパク質の凝集を促進する可能性があるため、神経変性疾患の発症や進行におけるエクソソームの役割が注目されています。
試験管内では異常なポリグルタミンタンパク質の凝集体を作り、培養細胞に添加すると、この凝集体は細胞内に移行し、正常なポリグルタミンタンパク質と共に凝集することが観察されています。
また、異常なポリグルタミンタンパク質を過剰に発現させると、オリゴマーと凝集体が別の細胞へと移行することも報告されています。
したがって、他の神経変性疾患の凝集性タンパク質と同様に、ポリグルタミンタンパク質も細胞間で広がる可能性があります。
一方で、培養細胞で過剰にポリグルタミンタンパク質を発現させると、エクソソームに内包されて細胞外に分泌されることが確認されていますが、これが細胞間の伝播を引き起こすかどうか、そして実際に病態に関与するかどうかはまだ解明されていません。
また、エクソソームは凝集性タンパク質の分泌伝播によって神経変性疾患の進行を促進する可能性がある一方で、細胞間で生体保護因子の伝達を媒介し、タンパク質の凝集を抑制して病態を抑制する役割も果たす可能性があります。
細胞は、タンパク質の凝集や異常蓄積を防ぐために、オートファジーやプロテアソームといったタンパク質分解機構や、タンパク質の正しい形成を助ける分子シャペロンといったタンパク質の恒常性維持機構を備えています。
熱ショックタンパク質Hsp70やHsp40といった分子シャペロンはエクソソームを介して細胞外に分泌され、細胞間伝播を通じて他の細胞内でポリグルタミンタンパク質の凝集を抑制することが明らかになっています。
オランダのKampingaらの研究グループは、DNAJB6bというHsp40ファミリーの分子がポリグルタミンタンパク質の凝集を最も強く抑制することを発見しました。
彼らはこのDNAJB6bを豊富に含むエクソソームをポリグルタミン病モデルマウスに髄腔内投与すると、脳内でのポリグルタミンタンパク質の凝集が顕著に抑制されることを示しました。
これらの結果から、分子シャペロンを内包するエクソソームがタンパク質凝集を抑制し、ポリグルタミン病の治療に有効であることが明らかになりました。
また、幹細胞由来のエクソソームを利用した再生医療も注目されています。脂肪組織由来の幹細胞エクソソームやアストロサイト由来のエクソソームもポリグルタミンタンパク質の凝集を抑制することが報告されており、分子シャペロン以外にも病態抑止に寄与する他のエクソソーム因子が存在する可能性があります。
エクソソームは生体保護因子の細胞間での伝達によって生体の恒常性維持を担っていると考えられており、この本来の働きを利用して神経変性疾患の治療法開発が期待されています。
青山メディカルクリニック 院長 松澤 宗範
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