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がん治療

micro organisms cells background

長期免疫記憶の形成に必要なN K T細胞

がんは自分の細胞から生まれたもので、アジュバント物質をもっていないため、長期免疫記憶を形成・維持させるための記憶細胞を増殖させることが困難です。

長期免疫記憶に重要なアジュバント作用は、自然免疫系受容体を介して発動されますが、そのシグナルを受け取り、免疫記憶をつかさどる獲得免疫系リンパ球に伝える役目を担っているのがナチュラルキラー T (NKT) 細胞です。

NKT細胞のアジュバント作用は、病原体によるNKT細胞の直接活性化、あるいは間接的活性化によりNKT細胞から産生されるインターフェロンγ(IFNγ) が獲得免疫系リンパ球の活性化と急激な増殖を誘導し、免疫記憶を作ります。

NKT 細胞の抗原受容体は、マウスでは Val4Ja18、ヒトではVa24Ja18遺伝子からなります。 そしてこの抗原受容体で、多くの病原体がもつ糖脂質抗原であるアルファガラクトシルセラミド (α-GalCer) あるいはその類似物質を認識し、活性化されます。

Val4Jal8受容体は、NKT細胞発生初期から1塩基のN領域をVal4とJa18遺伝子間にもつように遺伝子再構成したものが発現しN領域はグリシン第3塩基に相当するため、どのような塩基が挿入されてもアミノ酸レベルでは均一の受容体発現になります。

したがって、Val4Ja18遺伝子発現はNKT細胞分化の運命決定因子であり、実際、獲得免疫系が欠損している遺伝子欠損マウスにVal4Ja18遺伝子導入すると免疫系にNKT細胞しか存在しないマウスができます。

Val4Ja18遺伝子は、ダーウィン選択を受けている遺伝子であり、ダーウィン選択はほかのT細胞受容体遺伝子にはみられないことから、NKT細胞は、種の生存、すなわち感染防御に不可欠の細胞であることを示唆しています。NKT細胞が感染対策にとって最も重要な長期免疫記憶の成立・維持に不可欠の細胞だからです。

実際、NKT細胞欠損マウスでは、抗原特異的Tリンパ球の増殖はみられず、免疫記憶細胞形成は起こりません。そこで、NKT細胞を活性化することでがんに対する長期免疫記憶を誘導し、持続的ながん攻撃を可能にしたN K T細胞標的治療が考案されました。長期免疫記憶ができにくい病原体ワクチンの長期免疫記覚誘導維持にも貢献できます。

千葉大学でおこなわれた手術・放射線治療・化学療法に無効の進行肺がん患者〔平均生存期間中央値 (median survival time: MST)は4.6ヵ月〕を対象にした臨床試験において、「N K T細胞標的治療を受けた17名の患者の MST は 18.6ヵ月と4倍に延長し、治療を受けた患者の60%において MST は31.9ヵ月に延長しました。さらに化学法治療抵抗性進行肺がん患者35名を対象におこなった先進医療BにおいてもMSTは22.2ヵ月と延長しました。

千葉大学で行われた臨床試験において、活性化されたNKT細胞はがん組織に浸潤し、がん組織内の自然免疫系・獲得免疫系リンパ球を活性化し、長期免疫記憶を誘導し、持続的ながん攻撃が可能になり、末期がん患者の生存期間延長効果がありました。

青山メディカルクリニック 院長 松澤 宗範

文献
1)Dashtsoodol Net al: Natural killer T cell-targeted immunotherapy mediating longterm memory responses and strong antitumor activity. Front Immunol 8: 1206. 2017 30 no.3 2022
2)長期免疫記憶の形成・維持に不可欠なNKT細胞(解説) 谷口 克(理化学研究所生命医科学研究センター)炎症と免疫(0918-8371)30巻3号 Page292-293(2022.04)

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