現在、脱毛症に関する再生医療でPRPを用いた治療はすでに多くの施設で実施されています。
脂肪幹細胞や培養毛根鞘細胞を用いた治療法も実施や治験が行われています。
毛髪治療は可逆的脱毛や軽症であれば、治療可能ですが、不可逆的な脱毛症や重度の脱毛症は毛包数の減少の程度が激しく、治療困難な場合が多いのが現状です。
1990年代には毛乳頭細胞を培養する方法、2000年代には毛球部毛根鞘細胞を培養し注入する方法など、組織や器官の修復のために組織幹細胞を移入する方法が研究されています。
再生医療の大きな目標は、機能不全に陥った器官を、再生した器官と新しく置き換えることですが、いまだ実用化には至っていません。
一方、胎児期にできる器官原基を再生して移植する器官再生の分野では、歯や毛包などの再生に向けて研究開発が進められています。
毛包再生研究では器官発生に上皮性や間葉性幹細胞が必要でマウス皮膚が用いられてきました。
この皮膚によって得られる細胞には、毛包の上皮性、ならびに間葉性幹細胞である毛乳頭細胞が含まれており、この細胞群を凝集させると、細胞凝集塊内部にランダムに毛包が誘導されることが示されています。
さらに毛包の外毛根鞘細胞を利用して毛包を再生する方法や、iPS細胞からの毛包再生技術も確立されつつあり、毛包再生医療の技術開発は進んできています。
再生毛包原基を腎臓皮膜下で異所的に発生させると、成熟した再生毛包が発生します。この再生毛包を分離し、ヌードマウスに移植したところ、毛包幹細胞ニッチを維持して毛周期を有し、さらに皮膚内で正常に周囲組織と接続して神経刺激にも応答する毛包再生が可能です。
これらのことから、今後、毛包再生医療の研究が進めば、再生毛包器官原基を成熟させ完成した再生毛包を移植し、移植後すぐに機能させることが可能になるようになるかもしれません。
青山メディカルクリニック
院長 松澤 宗範
参考文献:
・Stenn KS, & Paus R: Controls of hair follicle cycling. Physiol Rev. 81: 449-494,2001
・Cai J. Cho SW, Kim JY, et al: Patterning the size and number of tooth and its cusps. Dev Biol, 304: 499-507, 2007.
・BEAUTY #11 Vol.2 No.10, 2019