多くの癌の発生・進展に腸内細菌が関与していると報告されています。
悪性黒色腫、非小細胞肺癌、腎癌に対する免疫チェックポイント阻害剤の治療効果と腸内細菌の関連が報告されています。
さらに抗生物質の投与が腸内細菌に影響を及ぼした結果、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を阻害するという報告もあります。
すなわち、腸内細菌叢は癌の発症・進展だけでなく免疫チェックポイント阻害剤の治療効果にも強く関連していました。したがって、癌に対する抗腫瘍免疫反応は腸内細菌叢に依存すると考えられます。
実際に、膵癌の術後10年近く長期生存したグループと1年半ほどでなくなったグループに分け、細菌叢の多様性や構成を比較した結果、長期生存できた膵癌患者の組織内における細菌叢は、生存が短かった患者と異なり、細菌の多様性が高いことがわかりました。
さらに、これらの細菌叢の違いと腫瘍微小環境におけるエフェクターT細胞の密度が関連していました。
つまり、膵癌患者に対する抗腫瘍免疫反応は、腸内細菌叢が腫瘍組織内に侵入した細菌叢に影響されていました。また、それぞれの細菌叢は代謝活性でも大きく異なっていました。
膵癌における抗腫瘍免疫誘導には腸内細菌による樹状細胞の活性化やT細胞、B細胞の活性化が関与していると考えられます。
消化管は様々な外来抗原に恒常的にさらされている特殊な環境で絶妙なバランスを保っています。
腸内細菌叢と樹状細胞が、宿主の免疫反応の調整に重要な役割をしていることが明らかになってきています。
そして腸内細菌叢と樹状細胞は様々な疾患の発生・進展に関与していると考えられます。
青山メディカルクリニック 院長 松澤 宗範
参考文献:
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2) Riquelme E. Zhang Y. Zhang L, Montiel M. Zoltan M,Dong W, Quesada P. Sahin I, Chandra V. San Lucas A. Scheet P. Xu H, Hanash SM, Feng L. Burks JK,Do KA, Peterson CB, Nejman D, Tzeng CD, Kim MP,Sears CL, Ajami N, Petrosino J. Wood LD, Maitra A. Straussman R. Katz M. White JR, Jenq R. Wargo J. McAllister F. Tumor microbiome diversity and composition influence pancreatic cancer outcomes. Cell.2019; 178: 795-806.
3) 【腸内細菌と免疫、その最新情報】腸内細菌と樹状細胞(総説)
小井戸 薫雄(東京慈恵会医科大学附属柏病院 消化器・肝臓内科), 伊藤 善翔, かん きん, 尾藤 通世, 堀内 三吉, 内山 幹, 大草 敏史腸内細菌学雑誌(1343-0882)36巻3号 Page135-141(2022.07)