加齢とともに表皮のターンオーバー速度が低下します。この過程は表皮細胞の増殖能の減少と分化制御の不全に関連しています。これにより、表皮および角層のターンオーバー速度が遅くなり、質の低い角層が形成され、水分量が低下します。
そしてバリア機能も低下しています。低下したターンオーバーはメラニンの排出を遅延させ、特定の老人性色素斑などの光老化の要因となります。
創傷治癒時には、移動・増殖・分化能を持つ幹細胞が損傷部に移動し、角層を再生します。外傷やD N A損傷などの刺激によってメラノサイト前駆細胞としての幹細胞が毛包より遊走分化して色素新生を促します。
マウスの表皮では、表皮細胞の分化後に形成される基底膜スペースが、幹細胞の増殖の刺激になり表皮ターンオーバーをを促進するとの報告があります。
表皮の幹細胞は、表皮のターンオーバーにかかわる毛包間表皮幹細胞、毛包全体に細胞を供給し損傷表皮の修復にも関与する毛包幹細胞、メラノサイト前駆細胞である色素幹細胞、あるいは真皮幹細胞、表皮の修復・再生に関与する間葉系幹細胞があげられます。
これらの幹細胞は、生理的な表皮層のターンオーバーや、UV刺激、酸化ストレス、DNA損傷などにより生じるさまざまなメディエーターを介して損傷部位へ集積し組織再生にかかわります。
最近、間葉系幹細胞やMUSE細胞が損傷部位のメラノサイトと共存することで、メラノサイトの増殖能や酸化ストレス抵抗性を高める役割を果たすことが報告されています。
加齢に伴い、表皮のターンオーバー速度が低下するのは、表皮幹細胞の老化と関連していると考えられます。最近の研究では、老化に伴う幹細胞の枯渇が考えられています。
加齢によってコラーゲンやインテグリンの産生能が低下することで表皮層の菲薄化と角層の肥厚が進行して表皮の老化が進むと考えられます。
こういった表皮幹細胞の加齢変化に紫外線の影響が加わり、老人性色素斑や老人性角化症などの光老化現象を引き起こすと考えられます。
青山メディカルクリニック 院長 松澤 宗範
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