消化管は腸内細菌、ウイルス、食餌性タンパク質など様々な外来抗原にさらされている環境なため、複雑な免疫系を構築しています。そして有害な外来抗原の侵入を排除し、無害な外来抗原と共存するために、免疫応答のバランスを保つように調整されています。
腸内細菌叢は、宿主の免疫反応の調整に重要な役割をしていることが明らかになってきています。腸内細菌環境の乱れが、潰瘍性大腸炎、大腸癌、肝硬変、過敏性腸症候群などの消化器疾患や、糖尿病、神経疾患、アレルギー性疾患、動脈硬化などのさまざまな疾患の発症に関わっています。
ここで、免疫反応を誘導する細胞が抗原提示細胞(antigen presenting cells: APC)です。抗原提示細胞は、主要組織適合抗原複合体(major histocompatibility complex: MHC)クラスⅠおよびクラスⅡ分子上に抗原由来のペプチドを提示し、T細胞を刺激します。
B細胞、マクロファージ、樹状細胞 (dendritic cells: DC) が抗原提示細胞です。
そのなかでも樹状細胞は、いまだに抗原に遭遇していないナイーブT細胞を強力に刺激することが可能であることから、プロフェッショナル抗原提示細胞と呼ばれています。
樹状細胞は、骨髄幹細胞由来で末梢血全白血球の3-5%です。骨髄から末梢血中に移行して発生した樹状細胞の前駆細胞は、未熟細胞 (immature DC) となり、消化管、呼吸器、皮膚粘膜に移行します。
そして、外来抗原が生体内に侵入した場合、未熟樹状細胞はこれらの抗原を取り込んで消化します。分解された抗原ペプチドは成熟化した樹状細胞 (mature DC) の細胞表面に、MHC/抗原ペプチド複合体を形成して提示されます。その結果、異物抗原はT細胞の抗原受容体 (TCR) により認識されます。
MHCクラスⅡに結合した外来抗原由来ペプチドは、CD4+ T細胞を刺激します。
一方、MHCクラスIに結合した腫瘍抗原などの細胞内抗原由来ペプチドはCD8+ T細胞を刺激する事ができます。
このように、樹状細胞からT細胞に送られるシグナルによって、免疫反応が変化します。この刺激シグナルは、3種類存在します。
MHC/抗原ペプチド複合体からT細胞受容体に送られるシグナルがシグナル1。
シグナル2は共刺激シグナルで、樹状細胞に発現している共分子 (CD80 や CD86) から T 細胞に発現している CD28 へのシグナルです。
シグナル3は樹状細胞から産生されるサイトカイン(IL-12 やIL-10 など)です。シグナル3のサイトカインによって、ヘルパーT細胞 (T helper: Th) のタイプが決定します。
主としてIL-12 が樹状細胞から産生されれば、Th1ヘルパーT細胞のタイプが誘導され、IL-10 がメインであれば Th2ヘルパーT細胞や抑制性T細胞(regulatory T cell: Treg)が誘導されます。
一連のシグナル1から3の強弱で生体は免疫刺激状態または免疫寛容状態に誘導されます。
また、樹状細胞はヘルパーCD4+ T細胞の方向性や、エフェクター CD8+ T細胞の反応性も決定づけるため、免疫反応の司令塔の役目をする重要な免疫担当細胞です。
さらに、樹状細胞は、IgA産生細胞の分化にも関与しています。腸管樹状細胞は、inducible-nitric-oxide-synthase (iNOS)、tumour necrosis factor (TNF) family等を介して IgA産生を誘導することが報告されています。
免疫反応は非常に複雑なネットワークを構築しており腸内細菌および樹状細胞などによって様々な免疫反応が誘導されます。そして、腸内細菌および樹状細胞を介した免疫反応は様々な疾患の発生に関連している可能性があります。
樹状細胞は単一の細胞集団ではなく、複数サブセットから構成され、それぞれ異なる機能を有しています。その形態学的特徴や免疫学的機能から、樹状細胞は従来型樹状細胞(conventional DC: cDC) および形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid DC: pDC) に大きく分類することができます。cDCは、主に異物抗原特異的な細胞障害性T 細胞の分化誘導に関与します。
一方、pDCは、ウイルス感染時にI型インターフェロンを産生し、ウイルス抗原に特異的な細胞障害性T細胞の分化誘導をおこなっています。
さらに、非病原性抗原に対して、pDCはT細胞に対して抗原特異的免疫応答が過剰にならないように細胞障害性T 細胞をアポトーシスに導き免疫調整をしています。
抗原提示細胞である樹状細胞、マクロファージ、B細胞膜には多種類のToll様受容体 (Toll-like receptor: TLR)が発現しています。TLRを介して、病原体に特異的な構造を持つ腸内細菌由来の菌体成分、核酸、真菌、寄生虫固有の様々な分子構造などを認識し、樹状細胞などが活性化されます。したがって、TLRは外来病原体を認識する自然免疫のセンサーといえます。
すなわち、TLRは自然免疫誘導後に誘導される獲得免疫においても非常に重要な働きをしています。TLRはヒトでは1から10までの10種類が知られていて、微生物の構造などを認識しシグナルを細胞内に伝達しています。
例えば、TLR2はグラム陽性菌の細胞壁成分や様々な細菌のリポタンパク質やペプチドグリカンの認識に関与します。一方、グラム陰性細菌の細胞壁成分であるlipopolysaccharide (LPS) を TLR4 が認識します。
細菌壁成分が TLR2 や TLR4 で認識されるのと異なり、TLR5は細菌鞭毛構成タンパク質であるフラジェリンを認識します。
TLR等を介して、樹状細胞が活性化されると、強力な抗原提示能力を有しIL-12を産生し、Th1反応を誘導することが可能となります。一方、成熟化が十分に誘導されない樹状細胞は、T 細胞を刺激することがなく免疫寛容 を誘導することになります。
pDCは大量のI型インターフェロンを産生し、抗ウイルスや細菌免疫において重要な役割をしていますが、cDCと比較して、pDCはCD+T細胞に対する抗原提示能力が低いと言われています。
樹状細胞は単球を in vitro で、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte-macrophage colony-stimulatingfactor: GM-CSF)およびIL-4で培養することで誘導することが可能です。
さらに、TLR4を介してOK-432 (A群溶血性連鎖球菌の弱毒の自然変異株をペニシリンで処理した製剤)で刺激誘導された成熟樹状細胞は、Th1を強力に誘導し、腫瘍抗原特異的なエフェクターCD8+ T細胞を強力に分化・誘導することが可能です。したがって、癌患者に対して自己の樹状細胞をin vitroで誘導して作成した成熟樹状細胞に腫瘍抗原や TLR を活性化する成分を導入した癌ワクチンを用いた様々な臨床試験が実施されています。
青山メディカルクリニック 院長 松澤 宗範
参考文献:
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6) 【腸内細菌と免疫、その最新情報】腸内細菌と樹状細胞(総説)
小井戸 薫雄(東京慈恵会医科大学附属柏病院 消化器・肝臓内科), 伊藤 善翔, かん きん, 尾藤 通世, 堀内 三吉, 内山 幹, 大草 敏史腸内細菌学雑誌(1343-0882)36巻3号 Page135-141(2022.07)