免疫システムにおいて極めて重要な働きをしている免疫細胞にNKT細胞(ナチュラルキラーT細胞)があります。
NKT細胞は、自然免疫のNK細胞と、獲得免疫のT細胞の両方の性質を併せ持っている細胞です。ほかの免疫細胞たちが分業している仕事を、NKT細胞はすべて自身で行うだけではなく、指示も出すリーダー的な存在です。
実際に、NKT細胞が欠損したマウスやヒトは、弱い病原体に対しても無力で簡単に死んでしまいます。
NKT細胞はほかの免疫細胞に比べて極端に数が少なく、血液中には0.5%程度です。少な過ぎるために、免疫システムには大した影響力がないだろうと考えられ、あまり研究されてきませんでした。
NKT細胞は、1986年に理研の研究チームによって発見ました。元は自分の細胞であっても、がん化するとやはり細胞の顔つきが変わります。ほかの免疫細胞はMHCタンパクを目印にしているのに対し、NKT細胞は顔つきが変わったがん細胞の抗原を見つけることが可能で、NK細胞やキラーT細胞が見逃したがん細胞も攻撃することができます。また、免疫システムそのものをパワーアップさせることもできます。
通常、リンパ球はリンパ節に多く存在しているのですが、NKT細胞はリンパ節には存在せず、普段は肝臓、骨髄、肺に集まっています。そして、ひとたび病変が生じると、病変部に集まります。
ところが、そのままでは、がんに対して十分な働きをすることができません。細菌などの病原体に感染した場合は、病変部に到着したNKT細胞はすぐに活性化されます。これは、病原体からNKT細胞を活性化する物質が出ているからで、これをNKT細胞は認識して集まり、リーダーとしてさまざまな免疫細胞を活性化していきます。
しかし、がん細胞はもともと自己の正常細胞が変異して発生したものなので、NKT細胞を活性化させる分子をもっていないのです。そのため、NKT細胞は優れた潜在能力をもちながらも、そのままではがんに対して役に立ちません。
がん治療にNKT細胞を利用するには、活性化させる必要があります。ここが、NKT細胞による免疫療法を行う場合の大きなポイントとなってきます。
青山メディカルクリニック 院長 松澤 宗範
参考文献:
・谷口克監修「NKT細胞標的がん治療とは | 新しい免疫療法の臨床試験と期待」
・理化学研究所「記憶免疫機能を持つナチュラルキラーT(NKT)細胞を発見 | 長期間生存し、2度目の抗原侵入に強力に反応―」2014年8月9日
・伊東信久:がんと闘うN K T細胞標的治療