キラーT細胞は活性化し過ぎると、自分自身の体も傷めてしまう恐れがあるため、ブレーキ機能が備わっています。つまり、アクセルとブレーキの切り替えポイントとなる関所の役割を果たしているところがあります。これを「免疫チェックポイント」といいますが、この働きをがん細胞は悪用してT細胞のチェックポイントにくっつき、攻撃ができないようにして免疫から逃れています。
そこで、発想を変えてがん細胞がT細胞に対してブレーキをかけているのを解除すれば、T細胞はがんを認識しているので再び活性化して、がん細胞を攻撃するようになるのではないか、という理論から免疫抑制を解除する治療法が考えられました。
獲得免疫の司令塔である樹状細胞の表面には、自己と非自己を認識するためのMHCクラスIとMHCクラスⅡという抗原提示をするための受容体が2種類ついています。
T細胞にも、抗原を認識するための受容体のほかに、キラーT細胞にはCD8、ヘルパーT細胞にはCD4という受容体がついています。樹状細胞は、まずT細胞に抗原の情報が入った受容体をかざします。
キラーT細胞はMHCクラスIの受容体をCD8で識別し、ヘルパーT細胞はMHCクラスⅡの受容体をCD4で識別して、T細胞の受容体を介して抗原を認識します。
これがファーストシグナルとなります。
しかし、T細胞を活性化させるにはもう一つ刺激が必要で、これを共刺激といいます。樹状細胞から送られるB7という共刺激分子と、T細胞側のCD28という分子が結合します。これで初めてT細胞が活性化し、攻撃を開始するようになります。
この刺激がセカンドシグナルです。
しかし、活性化を続けていれば、T細胞も疲弊してしまいます。そこで、T細胞が活性化すると、表面にはCD28よりも強力なCTLA-4分子が出現して樹状細胞のB7を引き寄せて結合し、T細胞の働きにブレーキをかけます。
また、活性化したT細胞の表面には、PD-1という受容体もあり、自分の細胞まで攻撃しないように過剰な活性化を抑える働きをしています。
そして、がん細胞は表面にPD-L1があり、T細胞のPD-1と結合し、T細胞の働きにブレーキをかけてしまいます。
免疫チェックポイント阻害剤とはがん細胞によってT細胞の活性化を抑制しているブレーキを解除し、免疫が正常に働くようにする薬です。
免疫チェックポイント阻害剤には何種類かあり、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体などがあります。 実際に免疫チェックポイント阻害剤が著効するケースが報告されていますが、患者の免疫細胞の状態にかなり左右されるため、現在は単独での使用ではなく、抗がん剤や分子標的薬との併用療法で研究が進められています。
また、免疫チェッポイント阻害剤には化学療法と同様の激しい副作用を伴うことが明らかにされています。
がん細胞はいろいろな方法を駆使して免疫が機能しないようにしています。しかも、がん細胞の一部が生き残ったり、がん細胞が増殖するときに変異を起こして新しい型のがん細胞が生まれてきたりします。そして、がん組織が複数の異なる種類のがん細胞で構成されることになるため、すべてのがん細胞を死滅させるのが難しくなります。
青山メディカルクリニック 院長 松澤 宗範
参考文献:
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・坂口志文 : 制御性T細胞による新しい免疫制御法の開発免疫難病・感染症等の先進医療技術
・Gozdz J. Holbreich M. Metwali N, et al.:Amish and Hutterite Environmental Farm Products Have
Opposite Effects on Experimental Models of Asthma.Ann Am Thorac Soc.2016; 13 Suppl 1: 599
・伊東信久:がんと闘うN K T細胞標的治療